内緒だよ

リニューアルに当たってなんかカッチョいいブログ名にしようと思ったけど、ぼくのブログとしか言いようがないや。

山月記パロ(タイトル未定)

ネットで見かけた山月記パロがとっても面白かったので書いてみた。ぼくも。

特にモデルはいないです。あったとしても結構混ぜましたのであなたのことだけではないのよ。 

 

☆☆☆

 

 

 

 坂本ダイキは頭がいい人間だったが生来の怠け者でおまけに自信家でもあった。私立の自称進学校で成績は上の下あたりで、特段勉強するわけでもなく、寧ろ自分よりも下の者は言わずもがな上の者が必死で勉強する様子を心の中で蔑んでさえもいた。微積分や関係代名詞、たかがこの程度のものが解けない様が不思議でならなかった。真面目に学ぶ様も不思議でならなかった。

 読書に漫画、ゲーム、アニメやネットを好んだ。然りとてこれもただ退屈な時間を潰すために過ぎない。

 受験期になり、上の者も、下の者も、自分と似たように怠惰な日々を過ごしていた連中も目の色を変え勉学に励むようになっても相変わらずだった。

 何と無く彼は、合格圏内であったこともあり、もしかしたらトップの大学だったら自分と気が合う面白い人もいるかと思い、K大を受け、落ちる。

 不合格通知を手にして彼は進路面談時に担任が「お前、受験は甘くねーぞ」と言ったことを思い出した。ということもなかった。

 特に悔やむこともなく、浪人生となる。K大で一浪はザラだろうし、親も許してくれる。坂本の家はそこそこお金持ちの家であった。

 相変わらず特段勉強に身入れるわけでもなく、かといってパチンコや酒を覚え完全に落ちぶれるわけでもなく、流石に二浪はヤベーってことで、K大からワンランク下げ、O大学を受ける。控えめに見ても日本で5か10本の指に入る大学だ。世間体も悪くはない。所謂高学歴だ。国立だし、東京の大学はなんか怖い。と相変わらずの上から目線であったが、実の所、彼が合格したのは全くの偶然で幸運だったに過ぎない。

 なんとなくカッコいいかなと人間総合科学部に入学する。通称ジンソーである。

 キャンパスライフは彼が漠然と描いていた楽しいものではなかった。つまらない。授業がつまらない。教養という名の温い科目も、自ら興味を持ち本でも読めば面白いのかもしれないが、授業という形式になると途端に退屈になる。専門科目もそもそも人間総合科学部などフワッとしていて、心理学の授業で隣の席の人とロールプレイままごとをしろなんて言われた時、彼は心底呆れかえってしまった。同輩達もつまらない人間ばかりだ。揃いも揃って頭を茶髪に染め教室の後ろを陣取り授業中くっちゃべる連中にも馴染めず、かといってオタク系グループの独特のネットに毒されたノリをリアルにもたらす雰囲気に生理的嫌悪感を感じた。女子は…そもそも彼はチェリーだった。高校よりも広い世界を期待していたが大学は、同じような人間が同じような割合で分布されてるに過ぎなかった。頭がいい、といっても所詮Q帝レベル、容量がよくずる賢い連中が集まり、よりタチが悪くなった。坂本は怠け者ではあったが正義感はあり、曲がったことが嫌いだった。代返やカンペ作り、授業を途中で抜ける周りが許せなかった。代返をするぐらいなら堂々と休む。

 ジンソーはO大学の中でも変わり者が集まる学部として学生間で有名だった。ヘンジンソー(変人荘)と呼ばれていた。そして、ジンソーの連中はヘンジンソーと呼ばれることを喜んでいた。自分で自分のことを変わってると形容する人間ほど厄介な人はいない。GWの手前には彼は学校には行ったり行かなかったり、行っても授業があろうと文芸サークルの部室に足は向き、1年も経てば「ああ? 坂本くん? 病気で入院中らしいね。可哀想に」という噂がジンソーには流れていた。彼が毛嫌いしていたジンソーの人達は実のところ優しかったのだ。

 

 

 

 翌年の11月、朝、東郷ツカサは彼女の家がある学生マンション立ち並ぶ住宅街から自分の下宿先に帰る途中だった。ふとなんとなしにアパートを見ると一階の一室から住民がゴミ出しをしようとドア開ける最中であった。こちらから視線を外すよりも先に、住民は東郷に気づき忽ちゴミ袋と共に大慌てで部屋の中に引っ込んでしまった。東郷は訝しげに思う。そりゃあ、家から出る瞬間に人と目が合うのは気まずいかもしれないし、悪いことをしたかもしれないが、何も急に戻らなくてもいいものに、、チラッと見えただけだが髭も髪も伸び放題でボサボサで、ニートか引きこもりだろか? どこかで見た面影あるような……歩みを進めようとしたところドアから人間の声で「あぶないところだった」と呟くのが聞えた。その声に東郷は聞き憶えがあった。驚きの中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

「もしかして、坂本?」

 東郷は坂本と同年で同じ文芸サークルに所属していた。友人の少なかった坂本にとっては最も親しい友であった。誰とでも分け隔てなく話し特定の友達グループを作らない東郷と誰かれ構わず内心見下し孤立する坂本で意外と馬があったのだろう。

「坂本だよな…?あのオレ、東郷……なんかゴメンな」

 坂本が普段授業に行ってないことは半ばサークル内ではネタ化していたが、ここ半年サークルにも顔を出さないので心配する声がチラホラ出てきたところだった。しかし誰もそこまで本気で心配はしなかった。それは坂本がメンドくさい奴だから…というよりも、そもそも坂本と誰も深く関わってなかったからである。彼は文サーはジンソーよりは多少マシだとは思うもやはり下に見ていたので避けていたのだが、文芸サークルの人たちは「坂本ってクールだよね。一人でいるのが好きっぽいし」と受け取っていた。やっぱりみんな優しいのだ。東郷は続ける。

「最近、サークルにも来てへんみたいやけど…」

 部屋からは、暫く返事が無かった。しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。ややあって、低い声が答えた。「如何にも自分は坂本である」と。

 東郷は始めの驚きと気味の悪さを忘れ、嬉しくなり、ドアに近づいた。「久しぶりー。なんでドア開けんの?」

 坂本の声が答えて言う。自分は今や異類の身となっている。どうして、おめおめと友の前にあさましい姿をさらせようか。かつ又、自分が姿を現せば、必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決っているからだ。しかし、今、図らずも友に遇うことを得て、愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜悪な今の外形を厭わず、曾て君の友であったこの自分と話を交してくれないだろうか。

 畏怖なんとかとかキタンの念とか難しい語句を並べたてられ、言っている意味の半分もわからなかったが、ドアは開けたくないけど、話は聞いて欲しいと東郷は理解した。

 しばらく文芸サークルでの追いコンがどうだとか今度部誌でリレー小説を書くことになったとか彼女がこの辺に住んでるから通りかかったとか話した。ぼかしたが朝帰りだということ、つまりそーゆーことがあった帰りだということに坂本も察しはついていただろう。風が舞い、髪から自分のではない匂いがふわりと東郷の鼻腔をくすぐった。

 

 東郷は意を決して聞くことにした。

「どしたん?」

 坂本の逡巡の間、東郷はアパートのドアにもたれかかり通りを眺めていると、保育園に行くのだろうか、5歳ぐらいの子どもとその母親がこちらを見ながら手を繋いで歩いていた。

 背後のドアは次のように語った。

 

(続く)

こっから元ネタでも「臆病な自尊心」と「尊大な自尊心」でおなじみのところ盛り上がり場面だけど、とりあえずいったんやらないといけないことをやりたいので終わる。