理想の恋びちょ
二十歳にもなると、この人と近いうちにセックスするだろうという予知がたまに起こる。
デジャブ、、既視感? 初めからそう決まっていたみたいに、「オレこの人とそのうちヤるんだろうなあ」ってのが皮膚の感覚でわかってしまう。
ナオミさんにそれが感じられたのはいつだっただろう。
OGとしてサークルの飲み会にやってきた時?
後日、飲もうと個別でラインが着た時?
それとも、もう少し一緒にいたいとその後僕の家にやってきた時か?その時にはセックスするだろうってのはほぼ確信に変わっていたか。
とにかく、なんとなくこの人とセックスすることになるというのがなんとなくわかる時がなんとなくあって、ナオミさんはなんとなくそんな感じがして実際なんとなく僕らはセックスをした。
サークル活動には乗り気ではないが、飲み会には出ている。
ナオミさんはそんな飲み会にふらっとやって来た。
周りは少し戸惑う。一体誰が相手すればいいのだろう?
サークルの活動の中心学年となる3年は、よく顔を出すOBOGの相手で忙しそうだし、僕以外の1、2年は人見知りで話しかけに行く様子はない。
彼女は少し顔に笑みを浮かべ、でもどこか寂しそうに細い煙草を吸って居酒屋で騒ぐ僕らを見ていた。
…まぁ、僕が行くか。
姉が2人いる僕は、幼い頃からのキョーイクのおかげで歳上の女性と話すのが苦手ではない。得意と言ってもいい。バイト先でもパートおばちゃんらに結構可愛がられている。コツは少しやんちゃで生意気な自分を演出することだ。
「どうも、お久しぶり…ですよね? 席いいですか?」
「ああ、うん、いいよ。ごめんね…私全然、サークル来てなくてさ、えっと」
「○○です、二年の。いや、俺も全然来てないんで。でも、なんか見たことあるなぁと思って。いつかの飲み会の時、席近くありませんでした? チョクでは話さなかったんですけど」
口から思いつくまま喋る。前に会った記憶なんか全くない。
「えー? あー!そうだ!そうかも!」
まじかよ。改めて彼女の容姿をしっかりと見る。まぁ可もなく不可もなく…つかマジで形容しにくいな、この人の顔。ブスではないけど可愛くもないな、と品定めする。
「あれ? でも、私前に来たのいつだっけ? ねぇ、覚えてる?」
「いや、知らないっすよ(笑)」
適当に彼女の相手をして、適度に気に入られ、ラインを交換する。今度飲もう、と。自分の好きな女の子にはからっきしで、上手くラインのやりとりが続かないのに、こういうのに関してはホント上手いな。と我ながら思う。飲んでいても酒が無くなったのに気づいて店員さん呼んだり、煙草の火を点けたり。ホストにでもなろうかな? 全然チャラチャラ系ではないけど。
で、実際ラインが来る。今週末飲もう、と。
サークルで飲むような居酒屋よりはワンランク上の店で飲む。
話す内容は大したことは話さない。院生だというのは意外だった。もっと歳上かと思っていた…。
でも会話が途切れることはなく、盛り上がってるように僕らは話す。実際は、僕がそういう風に演じているだけ。もしかしたら、彼女も彼女でそう演じているのかもしれない。
メニューを見て色々な日本酒を飲んでみたいと言い出した。
ああ、どうぞ。付き合います。何飲みます?
おちょこ2つ頼み一合貰い、彼女は一口、口をつけてこれあんまり美味しくないと、残す。
ああ、どうぞ、残りオレが貰いますよ。好きなの頼んでください。
こういう人か。そんな気は少ししていたけど。自称酒豪とかサバサバ系を気取っている女にろくな奴はいない。そもそも、煙草を吸う女が嫌いだ。
残りの酒を飲む。
それに、、本当は僕はお酒が強くない。サークルで飲む時も一見酔ってないように見えるのは、意思の力とプライドによるもので、かなり気合いを入れて自分を保っている。今だってそうだ。バレてるかな?
ナオミさんは、あ、これ、おいしー、とおちょこに口をつけていた。少しだけ僕も貰う。日本酒なのに吐き気がするほど甘ったるい味がした。
店を出てこのあとどうするかと聞くと家に行きたいとか言い出す。まじか。場所的に僕の家はないと思ってたから掃除してないぞ。
「そっちの家の方が近いですし、そっちは?」
「私の家はダメ。」
「でも俺ん家は今汚いっすよ」
「いいから」
「いやホント汚いんで」
そんな押し問答を繰り返して、キスをする。
あーあ、何やってんだ。オレ。酔って路チューとかまじテンプレってるな。
キスで怒るかな?どこか行くかな?と思ったけど、強い力で僕を引っ張り大通りに出てタクシーを捕まえ、家行くから場所言ってと彼女は言う。観念して住所を伝える。
あー、てかホント何やってんだオレ。タクシーの中でも2人は手を繋いだままに気がついて強く握ってみる。彼女が握り返す。またキスしようか。運転手さんびっくりするかな。慣れてるのかな?酔ってタクシーでイチャイチャするとかマジもう…テンプレり過ぎでしょ。
家に戻ると、僕はもう流石に限界でトイレで吐く。
このゲロは酒だけのせいじゃないと思う。
「背中さすろうか?」と後ろから声がするのを僕は断る。吐いてる時に背中をさすられても余計に気持ち悪くなるし。
水と私の分の歯ブラシ買ってくると、ナオミさんは近所のコンビニに行き、一人自分の家でようやく気持ちを僕は落ち着かせられる。酒の酔いはもう冷めた。口をゆすぎながら思い出す。あー、そういえばゴム今家にないんだった。連絡しようか?でもな……察して買ってこないかな。
結局、ゴムのないまま僕らはセックスをする。そして僕は射精できないでなんだかグズグズのまま終える。
ナオミさんに挿入する前僕は、密かに想いを寄せていた、というほど大げさなものでもなく、少しだけ好きだったゼミの女の子を思い出した。
トイレでその子をネタにオナニーしてみる。なんで好きだったんだっけ?ああ、ちょっと顔が好みだっただけだ。
今更ながらナマでしてしまったことに不安になってみる。
まあ、イッてないし。
カウパーでも妊娠すると中学生の時性教育で習った気もするが、可能性は低いだろう。人間はそう簡単に生まれやしない。射精されてない膣よりも、派手に精子をぶちまけたトイレットペーパーの方がずっと妊娠する可能性は高い。
ナオミさんからはその後一回だけ家に行ってもいいかとラインが来たがメンドくさかったもあるし、本当にテストやなんやらで忙しくて厳しいと断ったら、それ以来連絡は来なくなり、そのうちいつの間にかラインIDを変えていた。当然サークルの飲み会にも来るはずはなく。
後でサークルで耳に挟んだところによるとナオミさんは大学院では心理学を学んでいたらしい。きっと僕のことも色々分析されたに違いない。
ムカつくね。
(了)